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映像業界は比較的、他の業界に比べて個人事業主が多いと思う。僕の現場でいうとたいてい半数以上がフリーランスで固められる。理由としてはいくつか考えられるが、最も大きな要因としては、個々人の能力が最終アウトプットの質に大きく影響を与えるからであって、会社名はクオリティを担保しない、ということが映像に限ってはまま当てはまるからだ。つまりA社に仕事を依頼したところ、50点の出来の映像が出来上がる場合と120点の映像が出来上がる場合と振れ幅があったりするのだが、Bさんに仕事を依頼したらば必ず90点の出来のものが上がってくる、といった具合に。それだけ映像制作は個人の能力に依存するところが大きい。だから個人事業主が成立しやすいのだと思う。

これはフリーランスに限ったことではなく、どこかの会社に所属していても「指名」という形で個人の能力が浮き彫りにされることが多い業界でもある。つまり個人>会社という図式が成り立ちやすいのが「映像」だと個人的には思っている。

さて、2012年。

僕が独立した2004年と2012年の今はぜんぜんまったく完璧に状況が違う。かなり個人に有利な時代になってきている。僕は次第に映像業界総フリーランス化が起こるのではないかとまで、実は考えている。逆に言うと会社は必要最小限を残してどんどん溶解していくのでは、と。なにより個人で仕事ができる環境が、社会的にもハードウェア/ソフトウェア的にも十分すぎるほど整ってきたというのが大きい。

1)YouTubeやVimeoなどの動画サイトが成熟
YouTubeの設立が2005年だ。僕が独立したときは当然ながらオンライン動画サイトなんてなかった。今は完全に廃れてしまったフラッシュ職人たちくらいしかいなかった。この差は巨大だ。自分が作った映像を、全世界に向けて発信することができるという強烈な武器。一夜にして世界的に有名な映像作家になれる可能性すらそこにあるんだから。

だって、5D Mark IIで有名になったVincent LaForet氏なんて、あの映像1本でマーチン・スコセッシと同じ会場に登壇するくらいの映像作家になっちゃったんですよ。あの映像が出る前、彼の名前を知っていた映像関係者なんてどれだけいただろう?ピューリツァー賞を取ったことがあるという経歴より、あの映像1本の説得力。

その例が示す通り、たとえ仕事依頼の電話が鳴らなくても、その一夜に賭けることができるという心強さ。これにも勝る武器はないと思うがどうだろう?

だからこそ逆に僕は自分が作った映像を軽々しくYouTubeやVimeoにUPしない。軽ーいテスト映像とかしょうもないもん上げて変な先入観持たれるの嫌だし。


2)機材の低価格化に拍車
これにはいくつかの側面があるのだが、まずは撮影機材の低価格化は驚くべきスピードで起こっている。なんせ昨年発表されたCANON C300が当初20000ドルという価格設定で世界中でバッシングされたくらいだからだ。いや、あんた、たった20000ドルでっせ??高く見積もっても160万円。これのどこが高いというのか?(今日B&Hで買えるようになったけど実際には15999ドルです。)

僕ら映像業界の人間にとって「それくらいの値段ふつーじゃん」という感覚は今でもかすかに残っている。が、もう時代は変わってしまった。今となっては仕方がないけど5D Mark IIが20万であの衝撃のクオリティだったから、その価格に慣れちゃった人たちにとっては20000ドルはベラボーだろう。もう戻れないんですよ200万300万の時代には。


よく使ったDVCAMカメラ。150万くらいだったけど当時は安い部類のカメラだった

さらにいうと5D Mark IIが産んだ副産物として、弊ブログでも昨年いっぱい取り上げたけど、さまざまな種類の特機が世に出てきたうえに、非常に質が高く安価なものがここ1~2年で急速に増えたということ。特機といえばデカくて高価でレンタルするのが当たり前で、1人ではオペレートできずに手間も暇もかかる、というのが1年くらい前の僕の中での常識だった。それが2011年1年間だけで様変わりしてしまった。

僕が書くコンテを見てもらえば一目瞭然なんだけど、特機でしかできないカットを予算とか手間とか時間とかをまったく考えずに気軽に書いてしまえる自分に驚く。それぐらい状況は変わった。製作費が安いとパンとズームしかできなかったのが、「どういうカメラワークをしよう」という選択肢の幅が格段に増えた。スライダー、円形ドリー、テーブルトップドリー、小型クレーン、スタビライザー、、すべて数万円で買えるなんて信じられん時代だ。


近々ご紹介予定のSkier Micro Crane。伸縮できるミニクレーンでこのコンパクトさはなかなかない。

言うまでもないがソフトウエアの値段も大幅に低下し、僕に言わせたらほとんどタダで配ってるくらいなもんだ、いまの価格帯は。

そういう低価格化の恩恵はフリーランスが一番受けやすく、恩恵を受けられないどころか存続の危機に陥るのが技術系の会社だ。映像業界の大きなビジネスモデルであった「高い機材やソフトを導入し専門家を育て、時間単位・日割りで売っていく」という柱の部分が、肌感覚ではもうほぼ半分くらい崩壊していると思う。

そして、僕にとって一番大切な側面なんだけど、そうやって価格が安くなったことで何が起きているかというと、ユーザーのすそ野が広がって知識の共有が始まっているということ。そのことによってコミュニティが形成され、いままでつながりがなかった僕を含めた個々人が、なんというかネットワークでつながり始めているという感覚がある。

それがフリーランスにとってどれだけ心強いか。

3)個人の発信力・影響力の向上と新たなマネタイズの模索
僕は基本的にこのブログはほとんど趣味で始めたようなもんで、本業が忙しすぎて月に1本書くのがやっとだったんだけど、それでも2006年からめげずに続けてきてよかったなあと思っている。2006年頃はちょうどブログが一番盛り上がった時期でもあったんだけど、なぜかぐるっと一周まわって今またブログを持っていることの重要性が、とても高まっている気がしている。

YouTubeやVimeoの映像は上に書いたように重要なんだけど、それだけでは出し切れない人間性であったり、情報であったり、機材レビューであったり、はたまたアイデアであったりを表明するメディアとしてブログやホームページは映像業界フリーランスにとって欠かせないものになっている。そして今、単なる営業ツールとして利用するのではなく、新たなマネタイズへの模索がされ始めていると感じる。

特に海外の個人ブログを見ていると本当に感心する。時折宣伝じみたレビュー記事が出てバッシングが起こったりするのが微笑ましいが、彼らは毎日のように記事をUPし、PVをかせぎ、きっちりマネタイズしようとしていて、その貪欲さというか積極性はすごい。コラボの機材出したり、おすすめ機材のストア作ったり、電子書籍を出版したり。彼らを見てるとこれからの仕事とはこうなんじゃないか、という焦りすら覚える。EOSHDを運営されてるAndrew Reidさんなんてまだ20代ですよ。開設2年くらいでEOSHDの月間ユニークユーザー数が20万IPって、もう個人ブログを超えた一大メディアじゃないですか。Vincent LaForet先生は脚本を募集したりしてるし、そういう使い方もありやなあ、と思ったり。

日本で言うとraitankさんとこ。raitankさんの情報収集解析能力と実際にやってしまう行動力には敬服する。UPされている写真のクオリティの高さやページデザインのかっこよさはもう大手メディアを超えている。いつもいつもお世話になってます。

この発信力・影響力は今後ぜったいに見逃すことはできないし、もう個人と大手の差なんて全くないといっても過言ではない。

4)テレビの低迷と制作会社の存在意義
テレビの視聴率は下がるしテレビは売れないそうだ。が、映像制作という業種においてテレビ番組制作の比率は依然として圧倒的だ。デジタルコンテンツ白書2010によると映像コンテンツの2009年市場規模はおよそ4兆3000億円。そのうちテレビ放送が締める割合はなんと77%だそうな(※注1)。そりゃあこれだけの割合だとどんなに制作費が安くてもテレビ番組制作は制作会社にとっては死活問題でしょう。

さらに、不思議なことにテレビは凋落していると言われているのに、映像制作会社の数はここ数年増え続け、映像制作従事者も増えているのだという(※注2)。

これはどういうことかというと、「テレビ以外の映像の需要が増えた」からだと僕は思う。

現に、上記の映像制作におけるテレビ放送の割合は減少傾向(※注3)。また、あくまで「映像コンテンツ」の市場規模なだけで、僕らが作っているVPや結婚式ビデオなどは入っていないので(※注4)、映像制作の売上総額を示すものではないと思う。

つまり、テレビ番組制作のような大口案件はどんどん縮小していっているが、細かい仕事の需要が増えているのではないかと推察する。テレビ番組制作は、映像制作会社の安定的継続的な売上確保に貢献するが、フリーランスにとってあまりうれしい仕事ではない。テレビってほんとしんどいんですよ。逆に単価が安く細かい仕事は、そういうテレビ番組制作に人手も時間も取られる映像制作会社にとって、あまり旨みのある仕事ではない。

この二つのタイプの仕事の比率が変わってくることによって、より個人、フリーランスの活躍の場が増えるのではないかと予想する。もちろん映像制作会社の数も増えているのは事実なので、個人だけでなく今後どんどんそういう「テレビ以外の映像仕事」を引き受ける制作会社も増えるだろうが、テレビと違ってそういう仕事は予算規模も小さく、映像制作会社である必要はないので、個人と会社が同じ土俵に立てると思う。

5)個人こそ重要な時代に
これは一般論だが、すでに社会の風潮としてノマドワーキングやら雇用の流動化やらいろんなことが喧しく叫ばれていることも大きい。そして冒頭にも述べたように、映像関連業種とフリーランスという仕事形態はかなり親和性が高く、昔からフリーの需要が高かった。もしかすると今の時代、フリーランスこそが最適の仕事形態になりつつあるのではと思ったりもする。

株式会社の重要な存在意義の一つは社会的信頼性だ。が、個人を強く押し出すことにより同じような信頼を勝ち取ることは可能だと思う。それは単にクオリティの保証という意味の信頼だけでなく、納期を守ったり支払いをちゃんとしたり、などなどの契約的な側面においても。

そして単に仕事関係だけでなく、社会の見方も今後変わってくるのではないか。個人事業主というだけで既存のエスタブリッシュメントからは怪しい目で見られるもんだが(特に映像制作のようなアヤシイ業種は、、、w)、どんどん個人のボリュームと存在感が大きくなってくることで、しょーもないことだけどローンが組みやすくなったりクレジットカードも簡単に作れるようになったり、もっというと「怪しい目」から独りでやってることに対する「敬意」すら払われるようになるのではないか、と思ったりする(個人的願望。まあ、なかなか銀行から信頼を勝ち取るのは難しいと思うけどw)。


最近、僕の周囲でフリーランスがどんどん増えている印象だ。そしてみんな結構成功している。もちろんうれしいし、競争心もふつふつと湧いてくるし、一緒に頑張っていければなと思う。

映像制作 | もっともっと個人の時代に~2012年の映像業界に向けて - 3RD EYE STUDiOS (via petapeta) Via tofubeats tumblr
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